女心と秋の空
「女心と秋の空」ということわざがある。
天気の変わりやすい秋の空を、変わりやすい女性の心になぞらえたコトバだ。
でも、もともとは江戸時代に、女性に対する愛情が変わりやすい男性のことを表した
「男心と秋の空」が始まりだ。
「男心と秋の空は一夜にして七度変わる」という室町時代の狂言のセリフもある。
とにかく、男の心も女の心もいにしえの時代から移ろいやすいのだ。
赤いダイヤ
商品先物の営業をやっていた時代、「あずき/小豆」が「赤い魔物」と呼ばれていることを知った。
「赤いダイヤ」という梶山季之の小説にもなった小豆は、まさに「ザ・先物取引」と言えるほど
相場がドラマチックに乱高下する投機商品だった。
それはまさに変わりやすい人の心の動きに似ている。
ストップ高をつけたかと思えば、次の日にはストップ安をつける。
商談で大事なのは、気持ちの相場が上がって行く時の段階でいかに話をまとめられるかだ。
下げ相場に入ってからクロージングに入っても、決まる確率は落ちて行く。
前にも話したように、「人は感情で物を買う」からだ。
しかも、その下げ相場は、ヘマをすれば1秒先にでも始まり、急落する。
今回の商談では、私の行動が、正確には私の言動に反応した奥さんの様子をみて、ご主人の感情はストップ安をつけてしまったのだ。
商談の三角関係とは?
ちょっと話が脱線したが、お客さんがご夫婦で来店された場合、あなたが意識することは、
ご夫婦とあなたとの間に正三角形に近い不等辺三角形の関係を作ることだ。
これは、気持ち的にも、距離的にもだ。
私は、「心の距離と実際の距離は正比例する」と考えているので、この三角形はテーブルのポジショニングにも影響する。
作り方のイメージとしては、まずご主人、奥さん、あなたを結ぶ正三角形を作る。
そして奥さんとあなたとの距離を少し離す。
奥さんとご主人との心の距離感というのは、基本的に決まっていてコントロールが難しいところだが、物理的な距離が離れないように気を配る。
なるべくご夫婦がテーブルの隣り合う席に座ってもらおう。
できれば四角ではなく、丸型のテーブルの方がお客さんの人数の変化に対応しやすく、ポジション取りがやりやすい。
ご夫婦が同じ方向を見て、あなたと向き合える環境を整えよう。
大切なのは、あなたを含めたテーブルを囲む全員で問題を解決しようとするマインドを共有することだ。
参加することに意義がある
避けなければいけないのは、奥さんがテーブルから離れてしまうパターン。
こうなると商談のまとめが難しくなる傾向が強まる。
こうなってしまう理由は、ズバリ、奥さんが商談に参加しているという意識が薄いからだ。
ただし、これは奥さんのせいではなく、あなたがそうさせている場合がほとんどだ。
多くの場合、ご主人の方ばかりを見て商談を進めてしまう。
こうなると、奥さんは「無視されている」「重要と思われていない」「私には関係ない」と感じるだろう。
あなたが確実にやらなければいけないことは、まずはアイコンタクト。
これが意外とできない人が多い。
もし直接目を見ることが苦手なら、相手の口元を見るようにしてみよう。
「目は口ほどにものを言う」と言われるように、話をする人の目が相手の目を捕らえていないと説得力は半減するようなものだ。
「目ヂカラ」を大いに活用しよう。
商談のキャスティングボードをにぎるのは誰?
割合的には、ご主人6割、奥さん4割ぐらいがちょうどいい感じだ。
私の失敗談のように奥さんに9割5分は論外だが、ご主人よりも奥さんを見る割合が高いと、ご主人が面白くないと感じてしまう。
だから、このバランス感覚を持つことは大切だ。
奥さんに同意を求めたり、時には質問を振ったりして参加意識を高めてもらおう。
とにかく、奥さんも一緒になって考えましょうという演出が必要だ。
商談はお客さんのためにあるが、そのキャスティングボードはあなたが握っていなければいけない。
もちろん、キーパーソンが明らかに奥さんの場合は、当然のことながら商談の重心は奥さんに置く。
キーパーソンとは、ズバリお金を出す人だ。
ただし、男という生き物は、女性に対して主導権を握っていたいという意識が強い動物なので、やはりいくら奥さんがお金を出すと言っても女性への偏り過ぎは禁物だ。
要らぬ嫉妬はスムーズな商談を進める上で障害以外の何物でもない。
気づいた時には、「ジ・エンド」だ。
ご主人、奥さん、そして営業を結ぶ三角形の辺の長さに常に意識を向けよう。
このバランスのとれた三角関係を保っていないと、商談そのものが消滅してしまう。
まさに魔のバミューダトライアングルに迷い込んだように…
そして、商談の行方は…?
さて、前回の話に戻ると、私はお客様を見送った後、「さて、どうしたものか」と考えた。
ご主人も、奥さんも、そのクルマに対して「欲しい」という感情は一致しているはずである。
あとは、ご主人の「焼きもち」をどう冷ますかだ。
ちなみに余談だが「焼きもち」とは「ヤキモキする」が変化したコトバだそう。
ご主人だって苛立つ態度を見せてしまった以上、引っ込みがつかないところもあるだろう。
だけど嫉妬心は基本的に男性も女性もその好意を受け入れた、あるいは受け入れようとした女性に対して抱く。
だからご主人のイライラは、私に向けてではなく、奥さんに向けられているはずだ。
自分がまいた種ではあるが、そう仮説をたてた私はすぐにペンをとった。
いつもの「ご来店のお礼」に加えて、一筆加えることにした。
そこには、商談のときにご主人をお待たせしてしまったお詫びと、ショールームのクルマの中で奥さんと何を話していたかを書き綴った。
ご主人が奥さんの子育てにいつも協力的で、奥さんはそれをとても嬉しく思っていること、
このクルマなら奥さんが心配している子供の乗り降りや、車庫入れが簡単そうだと、ご主人に勧められたこと、
そして本当にご主人の言う通りだったこと、
奥さんが、つい意地を張って「ありがとう」とは言えないけど、ご主人にとても感謝していること、
そして最後に、是非ご購入いただき、今後お付き合いをさせて欲しい、と締めくくった。
お返事を楽しみにお待ちしております!とコトバを添えて…
1週間ほどして、そのご主人から電話が入った…
「あっ、カベヤさん?」
明るい声だった。
「悪いけど、もう一回おじゃましていいかな?」
「ひとつだけ確認したいことがあってね。」
「大丈夫、妻からはもうOKもらってるからさ。この前はありがとね。」
このお客様からは、3年後にも新車を買っていただいた。
相変わらず、奥さんは綺麗で、来店されると今でもちょっと心が躍ってしまう。
でも、もうヘマはしない!あなたになんかつまずかないわ!
(ン!?何かの歌詞にあったかな?)
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