修理の基本も情報集めから

お客さん「もしもし、あっカベヤさん? ◯◯だけど」

お客さん「ちょっとエンジンが掛からなくなってさ、困ってるんだ… セルは回るんだけどね…

何でかなぁ?」

ある日、こんな電話がお客さんから掛かってきた。

あるアメ車に乗っている遠方のお客さんだ。

遠方と言っても2、3時間でも行けないくらいの遠方のお客さんだ。

よくよく聞くと同じような症状が1年前くらいにもあって、近くのサービス工場で修理して

もらった経緯があるようだった。

私「その時は、何か部品を替えたのですか?」

お客さん「燃料ポンプを替えてもらったんだけど…」

私「燃料ポンプですか… 何が悪かったんですか?」

お客さん「整備の人が言うには、電気のコネクターがショートして燃料ポンプが壊れたとか…」

「でも、1年でまたこれじゃあたまらんですわ…」

確かにごもっともだ。

でもここで腑に落ちないことがある。

なぜ、そのコネクターがショートしたかだ。

遠慮せずにどんどん突っ込め!

私「なぜショートしたのか原因は聞かれました?」

お客さん「いや、聞いてない… でも燃料ポンプが悪いって言われたんで…」

私は状況を想像しながら、もう少しお客さんに突っ込んで質問してみた。

お客さんだって早く直って欲しいと思っている。

遠慮せずにどんどん聞いてみよう。

(但し、保証期間中の場合はあまり聞き過ぎはお客さんをイラつかせるのでほどほどに)

私「セルを回した時にボン、ボッボンって感じでエンジンかかかりそうな初爆はありますか?」

お客さん「いや〜無いね」

私「ではイグニッションをオンにした時に燃料ポンプのウイ〜ンっていう音とか聞こえますか?

カギをセルが回る1段階前まで回した時のポジションです。」

お客さん「いや、そんな音はしていない気がする…」

どうやら燃料ポンプが動いていないのは間違いなさそうだ。

通常、セルが回っているのにエンジンが掛からないという場合は、スパークプラグの火花が飛んで

いないか、燃料が噴射されていないかのどちらかに大別できる。

今回は、その後者の燃料系統の不全のようだが、そうだとすればお客さん自身であと出来ること

といえばヒューズのチェックぐらいだ。

私はヒューズボックスの位置を伝えて、ヒューズボックスのカバーの裏側にヒューズの配列が記して

あるので、何列目の向かって左から何番目の何色の◯A(アンペア)のヒューズが切れていないか、

もし切れていたらスペアヒューズと交換してみるように伝えて、一旦電話をおいた。

手助けができるところはこちらで積極的に動くべし!

20分くらいしてから、お客さんから電話がかかってきた。

「カベヤさん? やっぱりダメだ… ヒューズ替えてセルを回したら、またヒューズ飛んじゃった。」

これで燃料ポンプ、もしくは配線まわりに何らかの原因でショートがある確率が高まった。

こうなると、これ以上お客さんに何か作業をお願いするのは、むしろストレスを大きくしてしまうので、

早めにレッカー移動するなりして、修理、点検を見てもらう方向へとシフトした。

最近は自動車保険にロードサービスが付帯事項でつくケースが多いが、今回のお客さんは

ロードサービスに加入していなかったので、私がJAFを手配して1年前にお客さんが整備を受けたという

サービス工場へ入庫する段取りをつけた。

いずれにしても、1年前に同じような症状があったということは、運悪く今回も偶然燃料ポンプが悪く

なっただけなのか? あるいは別に原因があるのか?

・1年かかって燃料ポンプが悪くなった。

・前回はコネクターがショートしていた。

そしてもう一つお客さんが重要なカギとなることを言っていた。

・加速する時に、たまに息継ぎするような症状がでることがあった。

点を線で結べ!

私は知り得た情報からある仮説を考えた。

ショートが起きたということは過電流が流れたのではないか。

過電流が流れたということは、燃料ポンプに何かしらの理由で電気的な負荷が掛かっていたということ

ではないか。

燃料ポンプは1年前に交換していて、1年間は問題なく使えていた。

つまりコネクターがショートして燃料ポンプが壊れたのではなく、その逆の燃料ポンプに負荷がかかって

ポンプが焼きつきを起こし、その結果コネクターにも損傷をきたしたのではないか。

加えて、常に負荷がかかり続けていたが、ポンプがダメになるまでに1年間は耐えてくれた。

では、燃料ポンプに負荷が掛かり続ける原因はなんだろう? と考えてみて、燃料を吸い上げる時の

抵抗が大きくなるからか?と仮定した。

加速時に息継ぎするという症状が出るということは、加速中に失火するということもあり得るが、

ここでは、燃料の吸入抵抗が大きいために、多くの燃料を必要とする加速時に、適正な燃圧が

得られていないのではないかと仮定すれば合点が行く。

では、その燃料を吸い上げる抵抗を増大させるものは何だろうと考えると、燃料に含まれるゴミとか

あるいは何らかの異物が燃料ホースや燃料フィルターに堆積して、燃料の吸入を妨げていたのではないか。

相手の自助努力を引き出そう!

最終的には、現車を見てみないと正確なことはわからないが、大方こんな感じの原因ではないだろうかと

考えて、お客さんには自分なりの仮説を説明した。

そして整備工場への入庫時に、燃料ホースやフィルター、また燃料タンクなど、燃料ラインに何か

付着物や堆積しているものがないかどうがお客さんから伝えるように話をした。

「不親切だなぁ〜、あんたが整備工場に電話して説明してあげればいいじゃない!」

と思われるかもしれない。

しかし私の経験上、それをやってしまうと整備の現場が考えることをやめて、すべて依存してくるように

なる傾向が強くなる。

実際に車を触っている現場の人の方が、はるかに情報量が多いし、適切な状況判断ができるはずだ。

しかも1年前に同じ修理をしているということであれば、お客さんから言ってもらった方が、整備工場と

しても何か配慮してくれる可能性も高くなる。

いわばお客さんにとっては有利な立場になる条件が増えるのだ。

整備のアンテナを張れ!感度が上がれば営業力も上がる。

2週間後、あのお客さんから電話がかかってきた。

「あ、カベヤさん? この前の件ね、やっと直ったよ」

「やっぱりね、なんか燃料タンクに茶色い固形物みたいなのが溜まってて、それが詰まってたみたい。

すごく加速もスムーズになったよ」

おそらく「ワニス」と呼ばれるガソリンが腐って変質するベタベタした物質が邪魔をしていたのだと

思う。

「いや〜、ありがとう。本当はそっちまでクルマを持っていけるといいんだけど…なんせ遠いからね〜

ま、とにかく助かったよ!また何かあったら頼むね!」

はっきり言って、私は整備士の免許は持っていないし、現場経験も少ない。

でもいつもお客さんの窓口になってサービスの応対なんかも日常的にやっていると、車種によって

故障の癖のようなものがあることがわかってくる。

そしてお客さんに修理内容や故障の原因、結果を報告する時に、実際にクルマを見ないと正確に

伝えられない、ということもわかってくる。

そうしておかないと、お客さんからちょっと変化球的な質問をされた時に、頭で理解しただけでは

途端に説明がグダグダになってしまう。

修理やクレームの問い合わせは、営業だから関係ないなどということは断じてない。

たしかにストレスを感じることもあるだろう。

しかし、毎日サービスが何の整備をしているのか、どうやってその問題を解決したのか、もっと首を

突っ込んでクルマのことを知っておこう。

それは必ず、営業面においてもあなたのことを支えてくれる知識となる。

そしてあなたを「頼れるヤツ」に変えてくれる。

お客さんが困った時に、「あの人に任せておけば大丈夫」という信頼感があれば、お客さんは

末長くあなたからクルマを買い続けてくれるだろう。

忘れてはいけない。

あなたはクルマのプロでいるために、どんなことに対してもアンテナを立てておこう!

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