自動車学校の初日って?

「はい、ブレーキ踏んで」

「はい、クラッチ踏んで」

「はい、ギアを1速に入れる」

「はい、アクセルちょっと踏みながら、クラッチ戻して」

ガクン(エンスト)

「はい、もう一回最初から!」

教官の声が車内にひびく…

覚えているだろうか? 初めて自動車学校に入ってクルマの操作をした時のことを。

思っていたよりもゼンゼンうまくこなせない。

「何これ!? メチャ難しいじゃん!」

「ウエッ!またエンストした。カッコわる!…」

父は偉大な先輩ドライバー

いつも父親が運転するクルマに、何も考えずに乗っていた。

実際にクルマに触れるまでは「クルマの運転なんて簡単なもんだろう」と高をくくっていた。

しかしどうだ、このチグハグな感じ。

上手くこなせない自分に苛立ち、自己嫌悪に陥ることもしばしばだ。

なぜだか交差点を曲がる時にクラッチを切ってしまうクセが治らず、教官から注意を何度も

受ける毎日…

この時ほど、父親に尊敬の念を抱いたことはない。(最初だけだが…)

「うちの父ちゃん、実は凄かったんだ!」と…(別に凄くはないんだけど…)

坂道発進の時なんかはもう大変だ。

クラッチをつなぐ要領がわからないから、エンジンだけがいたずらに唸りを上げまくる。

「ブオォォォォォォ〜〜〜ンンンッ!!!」

教官:「アクセル踏みすぎだって!」

♫ 分かっちゃいるけどやめられない…

「は、はいっ」

そう答えるのが精一杯で、気持ちは焦りまくりである。

コースから戻ってくる頃には自信喪失で、車校に通うのがおっくうに感じられた。

衝撃のセナのオンボード映像

今思い起こせば、この時の体験がクルマの運転に対する向上心の芽生えだったのかもしれない。

私がクルマの免許取得にいそしんでいた頃、日本はF1ブームに沸いていた。

隣町の岡崎市から中嶋悟がF1ドライバーとしてデビューし、日本でも絶大な人気のあった

アイルトン・セナとアラン・プロストを有するマルボロカラーのマクラーレンホンダが1、2

フィニッシュを決めまくっていた頃だ。

ちょうどその頃に、友人から借りたセナのF1デビュー前のオンボード映像というのがあって、

それを見て失神した。

ハンドル操作も凄いが、そのシフトチェンジの速いこと速いこと!

私のなんてセナと比較すれば(神と比較するな!)「よいしょっ」ってな感じで、投げたボールに

ハエが止まるくらいに遅い。

さすがに足元までのカメラアングルは無かったが、クラッチやアクセル操作は一体どんなことに

なってしまっているのだろうと、物凄く興味をそそられた。

なんせ自分はまだ、「ブオォォォォォォ〜〜〜ンンンッ!!!」の世界だったから。

最速の妄想ドライバー

でも、運転が上手になりたいという意識は強くて、まだ免許も取れていないのに「◯◯のドライ

ビングテクニックでライバルに差をつけろ!」みたいな本が増えていった。

別にライバルなんていないのに…

ふむふむ「ヒール・アンド・トー」なんて技術があるのか…

ダブルクラッチ、アンダーステア、タックインなどなど、免許もないのに知識だけはどんどん

増えて、頭でっかちの妄想(暴走?)ドライバーになっていった。

早く自分のクルマが欲しくてしょうがなかった。

買えもしない新車の試乗インプレッションを雑誌で読みながら、頭の中で妄想をさらに

膨らませていた。

ちょうどこのころにオートマ限定免許って制度が始まったと記憶しているが、わたしの周りで

そんなので免許をとろうとする人は誰もいなかった。

このころの男子は、「オートマに乗るなんてカッコ悪い」という意識が強かったのだ。

あのマニュアルの一連の操作を、涼しい顔をしてパンパンッと決めるところが

カッコよかったのだ。

よく男の仕草で女子が「キュン」とするランキングみたいな中で候補の1つとなる、

「クルマをバックさせる時に後ろを見ながら腕を助手席にまわすところ」というのがある。

女子のみなさん。

バックする時に、あなた達が注目すべきは、アクセルとクラッチの絶妙な操作をこなしている

彼氏の「足」です。

「腕」なんてどうでもいいのです。

もちろん、これは今や貴重なマニュアル車でなければ拝めない光景ですが…

でも、このレアな足技を見つけたら必ず褒めてあげてください。

そうすれば、彼氏も喜んで、まさに「フットワーク」のいい男になること必至です。
(保証はない)

といっても日本のオートマ普及率は2011年の時点で98.5%、つまり街を走る100台のうち、

98台はオートマだから天然記念物級に見れる確率は低いかもしれないが…

マニュアル車は全身エクササイズができるフィットネスルーム

ま、冗談はさておきマニュアル車は両手両足全てを使って運転するので、否応無しにクルマを

操っているという感覚が強くなってくる。

まさに全身エクササイズができるフィットネスルームのようなものだ。

かたやオートマチック車は、片手片足で事足りる。

オニギリ食べながら運転だって簡単に出来てしまう。

別の言い方をすれば、運転に集中していなくてもクルマが操作できるのだ。

ところが、マニュアル車の場合は走る速度に応じて適切なギアを選ばなければならない。

だからギアには、常に注意を払っていないといけない。

素早く加速したければ、1段、2段、低いギアを選択する場合もある。

不用意にシフトダウンすれば、走行速度とエンジン回転のマッチングが取れずにショックが出て、

車体の挙動が不安定になる。

エンジン回転数にも気を配らなくてはいけない。

クラッチを繋ぐ操作一つを取ってみても、左足のつま先に感じるクラッチ板の圧着具合や、

耳に入ってくるエンジン音の変化、シートに腰掛けたお尻や背中に感じる車体の僅かな沈み込み

などからクラッチのトルクの掛かり具合を探っているのだ。

つまり常に運転操作に気を使わないと走りがギクシャクしてしまう。

さらに言えば、2速のトルク感の強い加速、3速の息の長い加速など、無意識のうちに

フィーリングの違いを読み取っているのだ。

マニュアル車は性感帯の塊?

文章にすると何だかとてもマニュアル車は面倒なクルマのように思える。

自動車学校の時は、いちいち頭で考え、順番を確認しながら操作をしていた。

でも内容的には平泳ぎを覚えるのと大して変わらない。

慣れてしまえば、体が勝手に反応してくれる。

もちろん、極めようとすれば人並み外れた鍛錬が必要だが…

これがオートマチックだと、これら一連の作業が一切省かれているので当然のことながら

何も感じるものはない。

「感性を磨く」とは、つまり「細かいフィーリングの違いを嗅ぎ分ける力」を身につけ、

それを洗練させて行くことなのだ。

でも、感じる対象が無ければ、当然嗅ぎ分ける機会も訪れない。

つまり感性を磨くためには「手数を増やす」しかない。

手数が増えれば、感じる回数も増えるのだ。

だからクルマで感性を磨くならオートマチックではなく、マニュアル車に乗るべきなのだ。

マニュアル車が教えてくれること

私はクルマの営業マンもサービスの整備士の人も、是非マニュアル車に乗って欲しいと

思っている。

自慢ではないが、私はクルマの免許を取った10代の頃から家族用のバン以外は、ず〜〜〜っと

マニュアル車を所有して来た。

くだらないことかもしれないが、私のクルマに対するこだわりだ。

マニュアル車から降りる時が、私のクルマ好きの終わる時だと思っているくらいだ。

運転中は音楽ではなく、エンジン音か、排気音か、ロードノイズを聞いている。

アホである。

でも、クルマの情報が耳からも入ってこないと何だか落ち着かないのだ。

感性を研ぎ澄ますと、3000rpm辺りからゾクゾクするエンジン音に変わってくるクルマも多い。

吸気音がやる気スイッチを押しまくることもある。

カムノイズが心地いい連続したトーンを醸し出すこともある。

エクゾーストノートが猛烈に官能的なスクリーミングを奏でることもある。

クルマに携わる人たちには、クルマにはかくもエクスタシーを感じるポイントがあることを

知って欲しいのだ。

そして実際に感じて欲しい。

マニュアル車は、それを手っ取り早く体験できる。

さあ、あなたもマニュアル車で感性力を磨くのだ。

以前のあなたと比べて、クルマに対する表現方法が変わっているはずだ。

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