霧の海へ沈んだ潜水艦

フェニックスを出発してから、すでに4時間以上走ってきている。

走行距離も500km近くまで伸びているはずだ。

モニュメントバレーを目の前にして2人の前に白いカスミのようなものが、たちこめ始めた。

霧だ!

いくつもあった潜水艦のアタマは、霧の海に次々と姿を消していってしまった。

そしてなかなか浮上してこない…

私たちは、なんとかビジターセンターまでたどり着いたが、霧の晴れる気配が全くない。

「本当なら、目の前に見れるはずなんだけどな〜」

友人が残念そうにため息をついた…

2時間ほど待ってみたが、一向に霧の晴れる様子がない。

映画「未知との遭遇」では、クライマックスで巨大なUFOがこのモニュメントの上空をゆるやかに

回転しながら天へ上ってゆく…

「♩レ・ミ・ド・ソー」と映画の中で宇宙人との交信につかわれた音階をつぶやいてみても、

私たちの思いは天には届かなかった。

後のスケジュールのことも考えて、結局私たちはモニュメントバレーを後にした。

そして「グランドキャニオン」へ向けて移動し始めた。

ま、来る途中にその片鱗は見れたし、雰囲気も十分堪能できたので良しとしよう。

そんなふうに友人と慰めあっていた。

結局「未知との遭遇」はできず、「道との遭遇」になってしまった…

バームクーヘンの割れ目…

しかし、3時間後に到着したグランドキャニオンでは、モニュメントバレーの不運を補って

余りある絶景を拝むことができた。

本当に地球の割れ目だ。

どこが谷の底なのか分からないくらいに幾重にも重なったチョコレートバームクーヘンのような

土の層が入り組んでいる。

そしてそれが遠い遠い地の果てまで続いているのだ。

ここへ来る時の荒野の広さもさることながら、このグランドキャニオンを見ても自然の偉大さと、

人間のちっぽけさ、はかなさを思わずにはいられなかった。

小さなことでくよくよしてたら、この桁外れにデカイ自然を見ると何か気づくことがあるかも

しれない。

何かと比べて自分が不幸だったり、劣っていたりすると人は悩み、落ち込んだりする。

比べる対象が自らの過去だったり、近しい友人だったりするかもしれない。

そういう時は、比べる対象をう〜〜〜んとデッカい、ビッグなものとするといい。

少しは気休めになる。

グランドキャニオンのお次はラスベガスに向かい、今日はそこまで走って宿をとろうという

ことになった。

ピアッツァは、ちょっとブレーキのジャダーが気になったが、この時はまだ問題なく走って

くれていた…

闇に灯ったロウソクの火…

ふたたび荒野の道に戻る…

正直言って、ず〜〜とこんな調子だといい加減退屈になってくる。

辺りはすっかり日が落ちて闇の世界となっていった。

日本と違ってアメリカはフリーウェイも国道も道路の脇に街灯なんてものは、まずない。

田舎道では、すれ違う車もまばらなのでヘッドライトを消すと本当に真っ暗闇の世界になる。

当時はナビゲーションなんて便利なものはなかったから、フェニックスで買った折りたたみ式

の地図だけがたよりだった。

室内灯の薄明りをたよりに地図の確認をしながら走る。

でも、あまりにも周りに何もない暗い夜道を走っていると、本当に道に迷ってないか不安になる。

たまに出てくる看板のサインだけが唯一の情報源だ。

今日1日だけですでに10時間以上クルマを運転してきている。

暗闇が続く中、クルマは峠道に差し掛かった。

会話が途切れることのなかった友人も私も口数が減ってきていた。

峠の丘を越えたところで眠気が一気に吹っ飛ぶ光景が目に飛び込んできた!

それは闇の中に、いきなり数千、数万本のロウソクの火が灯ったようなまばゆさだった。

ラスベガスだ!

何時間も暗闇に中にいたので、その明るさのギャップは強烈だった。

日本の灯りが白っぽく輝く夜景と違い、アメリカは低圧ナトリウムランプというオレンジ色の

街灯を使う(日本でも昔、トンネルで使われていたオレンジのランプ)ので、街全体が

だいだい色のオーブで包み込まれていた。

そのオレンジ色の光の群れに、なんとなく人の温もりを感じていた。

私たちは、「NO VACANCY(満室)」のサインが出ていないモーテルを探した。

時刻はもう少しで大晦日を迎えようとしていた。

モーテル名は忘れてしまったが、駐車場を挟んで向かい合わせに部屋がズラッと並ぶ、

いかにも個人経営のモーテルに宿をとった。

駐車場から段差もなく、すぐに部屋につながっているのだが、駐車場と部屋の境界線が

ペラペラのトビラ1枚だけなので、「大丈夫か〜ここ〜?」とちょっと怖さがあった。

案の定、シャワーは水圧のない「チョロチョロ」シャワーだ。

私は束の間の(初)モーテルを堪能した。

砂漠の上の大人のファンタジー

次の日はゆっくりめに起きて、活動を開始。

ラスベガスは、本当に何もない砂漠に上に街が出来ている。

そして、まさに砂漠に水が染み込むがごとく、巨大なホテルにお金が染み込んでゆくための、

ありとあらゆるシステムが備えられている。

豪華な客室、遊び心たっぷりのスロットルマシン、鮮やかなグリーンのポーカーテーブルを

囲むディーラーとドレスを着たご婦人や蝶ネクタイの紳士たち…

この華やかな雰囲気の中にいると、自然と気持ちが大きくなって気分が高揚してくる。

カジノとショーがもたらす非現実感がラスベガスの最大の魅力なのだ。

ここにいると、常識のタガが外れて理性が失われ、感情の、欲望のおもむくままに人は行動

しはじめる。

ラスベガスという街は、世界中から人を集め、散財させ、財布の中を空っぽにして、

でもお客さんを笑顔にして帰ってもらう大人専門のディズニーランドなのだ。

お祭りに出かけると気持ちが高ぶって、アニメのキャラクターのお面なんかを1000円も

出して買うことがある。

コンビニにもし置いてあっても絶対に買わないような400円も、500円もするリンゴアメを

お祭りや初詣の出店でためらいもなく買った経験をお持ちの方も多いだろう。

このような人間の習性を上手くビジネスの中に取り込むと、成約率の向上やアップセルに

つなげることができる。

とは言え、お金のない私たちは、この雰囲気を味わうだけで十分だった。

客室が3000以上あるというラスベガス最大のホテル「シーザスパレス」の広大なカジノの

フロア横にあるバフェで、私たち2人は中華ヌードルをすすりながら、人々の饗宴を眺めていた。

その日は大晦日だったので、午前0時が近づくとカウントダウンをするために、人々がロビーに

集まってきた。

5、4、3、2、1、Yeah !!!!!!!!!!!

大歓声とともに、乾杯をする人やハグし合う人たち、とにかくアメリカ人は陽気だ。

私たちはアメリカ版の「ゆく年・くる年」を見届けて、元旦のご来光を拝むために次なる目的地、

サンディエゴに向けて走り始めた。

さあ、私にとっては人生初のカリフォルニアだ!

カリフォルニアへの行く手を阻んだ「まさか!」の事態…

中学、高校時代とギターにのめり込んでいた私にとって、カリフォルニアは憧れの土地だった。

2人ともハードロック/ヘビメタ好きだったので、当時流行っていたいわゆる「LAメタル」の

本拠地に胸が高鳴っていた。

当然、クルマの中は眠気を飛ばす目的もあって、歪んだギターがザクザクとリフを刻む音楽が

流れ続けていた。

私たちはかわりばんこに仮眠をとりながら、走り続けていた。

そして私が運転をしている時に事件は起きた!

クルマがカリフォルニア州に入ってからだったと思う。

パーキングで少し休んでいる時のことだった。

ふとインパネに目を移した時に水温計の針が「H」(ホット)側にはりついていることに気づいた。

「ヤバイ!オーバーヒートだ!」

いったんエンジンを止めてボンネットを開けてみる。

暗くてよく見えないが、なんとなく冷却水のリザーバーに水が入っていないようにも見える。

クルマの下側を覗き込んでみると、なんと水の雫がポタッ… ポタッ… と落ちてくるのが見えた。

どうやら、どこからか水漏れしているみたいだ。

「どうしよう?」

まだ時間も早いのでどこのお店も開いていない。

ここからだと目的地のサンディエゴまで行くよりロスアンジェルスへ出た方が早い。

しかも友人がロスまで行けば連絡のできる知り合いがいるという。

とりあえず、だましだまし走りながらロスまで行って、その知り合いを訪ねて修理工場を

紹介してもらおうということになった。

私たちはリザーバーキャップを開けると、空き缶に水を汲んで、トイレをバリカン往復しながら

ラジエターに水を注いだ。

水温計の針の動きを気にしながら私たちはLAに行き先を変えて再スタートをきった。

とりあえずいつものヘビメタをかけて、少しづつ私たちは落ち着きを取り戻していった。

高速走行しているせいもあってか、水温計は思った以上に上がってはこない…

「何とかロスまで頑張ってくれ!」

そんな祈るような気持ちで車を走らせた。

空がうっすらと白み始めていた…

(私の国道66号線、その5へつづく)

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