知らない他人より、知り合いの他人…

私たちは、「ピアッツァ」にこまめに冷却水を補給しながら恐る恐るロサンジェルスを目指していた。

幸い、水温計は心配するほどは上がってくる様子は今の所ない。

でも、クーラントは明らかに減っているので、水漏れを何とかして直さないといけない。

シアトルまで行って、帰って来るには心許ない。

なにせロスからシアトルまでは片道だけでも約1800km、盛岡ー鹿児島くらいの距離があるのだ。

お昼前に何とか私たちは、友人の知り合いの家にたどり着いた。

今考えると、ナビもスマホもない時代に初めて訪れるアメリカの街で、いったいどうやってその家を

探し出したのか見当もつかない。

人間というのは、一度テクノロジーへの依存が当たり前になって、楽することを覚えてしまうと、

とことんそれに頼ってしまう本当にどうしようもない動物だ。

友人の知り合いは、私たちの事情を理解すると、快く近くの自動車修理工場まで案内してくれた。

以前に少しでも関わり合いをもったことがあるというだけで、人の心というのは受け入れやすく

反応するのだ。

逆に、一度でも良いイメージの関わり合いがあった人を頼りにしたいという欲求も持ち合わせている。

このあたりの行動心理は、セールス、そしてマーケティングに大いなるヒントを与えてくれる。

いずれにしても、人との繋がりが、これほどありがたいと思ったことはなかった。

見極めろ!アップセルのタイミング

お店の社長さんらしき人が出てきて、「今すごく忙しいけど彼にみてもらうから」、といって

アジア系のメカニックの人がニコニコしながら出てきた。

私たちは九死に一生を得た面持ちで、修理が完了するのを待った。

水漏れの原因はラジエターホースの劣化によるものだった。

ホースの一部がエンジンブロックか補器類に慢性的に接触していて、熱、振動等で穴が空いた

のだろう。

「これ用のホースが今は無いので、とりあえず水を止める応急処置はしておいた」と言ってさっきの

メカの人が出てきて説明をしてくれた。

「あと、これは作業して組み上げる時に余った部品」と、少し大きめのネジ2本ほどを渡された。

「!?、部品なんか余っていいの?」と心配に思ったが、そこはアメリカ。

これでいいのだ。(日本ならクレームになるところだ)

店長が費用の明細を持ってきて「君たちを優先してみてくれたんだから、彼のチップは弾んでやって

くれよ!」と言ってきた。

私たちは、助けてくれた感謝の気持ちも込めて、請求明細額の30%弱くらいをメカの人に別に

手渡した。

日本には、この「チップ」という習慣は馴染みが無いが、アメリカでは働く人の重要な労働賃金に

なっているので、払い忘れは禁物だ。

一応、相場はあるのだが、「謝礼」の意味合いもあるので、いいサービスを提供してくれたらチップ

の額も少し多めに払いたいという気持ちが働く。

サービスを提供する側も、より多くのチップを得ようといい仕事をするように努めるのだ。

いわば労働者の働く姿勢が試されていて、意識や実力が高ければ、より多くの収入が期待できる。

アメリカらしい合理的な習慣とも言える。

そして店長の一言は、見事なまでに、自然に私たちの財布からお金を引き出し、おまけにメカニックの

社員満足も獲得した。

路地裏は正直者が好き…

せっかくロスに来たのだから、「ハリウッド」やミレニアム達の住む高級住宅街「ビバリーヒルズ」を

見てみようと、さっそく快調になった?ピアッツァで出かけた。

しばらく走ると、山のいただきにあの有名な「HOLLYWOOD」のサインが見えてきた。

私たちはクルマを停めてハリウッドのメインストリートである「ハリウッドブルーバード」を少し歩いて

みる。

スター達の手形や足型がとられたコンクリートが床に貼られた「チャイニーズシアター」や「ハード

ロックカフェ」が目を引く。

アメリカらしい華やかな意匠を凝らした店々が軒を連ねていた。

まさにテレビや雑誌なんかで伝えられるロスアンジェルスの風景がそこにある。

しかし私にとって最も印象に残ったことは、大通りから外れた路地で見た光景だった。

道を間違えて踏み入れたその場所には、いわゆる路上生活者と思しき人たちが、ところどころ地べたに

座り込んでいる。

私がその脇を通り過ごそうとすると、まさに決まり文句のように

「Give me change」(小銭をくれ)とコトバを投げてきた。

もちろん、聞かぬふりをしてその場を通り過ごすのだが、初めてのことだったので正直、怖かった。

もし襲いかかってきたらどうしよう?

少なくとも自分の背丈よりデッカい連中ばかりから、体力的に太刀打ちできるはずが無い。

あの声の響きは今でも私の耳の奥底にこびりついて離れない。

今も2016年秋に行われる大統領選に向けて「格差是正」がキーワードになっているが、20年以上前

から多少の差こそあれ、問題の本質は変わっていない。

アメリカだけでなく、その国の本質を垣間見ようとするのなら、それは良くも悪くも路地裏に

隠されている。

今でこそ再開発されてクリーンなイメージに変わったと言われるダウンタウンも、この頃はメキシコから

流入してきた人達で溢れかえっていて、異様な雰囲気を醸し出していた。

アメリカ社会は人間の善と悪や、富と貧困など相反する世界が表裏一体で同居している。

眩しく輝く世界がある一方で、その反対側にある世界の闇は恐ろしく深い。

私たちはロスアンジェルス観光最後にサンタモニカを訪れた。

このブログのタイトル「国道66号線/ルート66」の西の終点となる地だ。

有名なサンタモニカビーチでは、青い太平洋と白い砂浜をバックにTシャツ姿の若者たちがスケート

ボードやローラースケートを楽しんでいる。

冬でも温暖なロスならではの景色だ。

どのような格差があったとしても、この美しい眺めは誰もが享受できる平等なものだ。

大勢の他人の中から1人を選ぶとしたら…

私たちは当初予定していた「サンディエゴ」行きを諦め、そのまま北上して「ヨセミテ国立公園」へ

向かうことにした。

しかし、またもやここで「ピアッツァ」がトラブルに見舞われる。

もう気にしなくてもいいだろうと思っていた水温計の針をふと見ると、またしても高温の「H」を

指しているではないか!

私たちは慌ててクルマを路肩に停めて、またしても水漏れか?と思ってクルマの下側を覗き込んだ。

しかし水が漏れている形跡は今回は無い。

「なんで?」

あのロスの修理工場へまた引き返すには、もう随分長い距離を走って来てしまっている。

私たちは水温計を気にしながら、「フレズノ」という街で自動車の修理工場を探した。

無意識に日本人、もしくはアジア系の人がやっている整備工場を探そうとしていた。

人は初対面の場合は特にそうだが、何も相手の情報がないところから、まず共通項を探そうとする。

そして自分と同じタイプの人間に安心感を覚えるのだ。

いわゆる「ラポール」(共感)を築くというやつだ。

だから自分たちに近いであろうアジア系のお店を探していたのだ。

そんな中で「いらっしゃいませ」と日本語が書かれた看板を見つけた。

私たちは地獄で仏に会ったような気持ちでその整備工場に飛び込んだ。

あいにく日本のメカニックの人はお休みだったのだが、私たちが日本人だと聞くと丁寧に

対応してくれた。

それまでにこの「ピアッツァ」に起こったこと、ラジエターホースの応急処置をしてもらった整備の

経緯などを説明した。

メカの人は「OK」と言ってボンネットを開け、エンジンルームを点検し始めた。

私たちは、もしクルマがダメだったらどうしよう? せっかく出掛けた旅だからレンタカーでも借りて

続けようか、などと話していた。

しばらくするとメカの人がこちらに向かって歩いてきた。

原因がどうも分かったようだったが、その理由を聞いて耳を疑った。

なんとラジエターホースが本来接続されるべきところに接続されていない!というのだ。

つまり冷却水が本来あるべき流れで循環していない、という説明だった。

一体全体、ナゼそんなことになってしまうのだろうか?

プロの整備士にみてもらったはずなのに…

その時はテクニカルな整備内容のことは、いまいち良く理解出来なかったが、とにかくこの旅の行く末が

最大の心配事だった私たちは、何より旅が続けられることを素直に喜び合った。

それにしても、あの時ふんぱつしたチップはいったい何だったのか…

ま、「旅の恥は掻き捨て」とも言うし…

納得はいかなかったが、とにかく私たちは歩みを先に進めることだけを考えた。

死ぬ前に行くべき公園

ヨセミテ国立公園は、秩父多摩甲斐国立公園を何百倍もスケールアップしたような場所だ。

そこでは超巨大な花崗岩の一枚岩の山々が連なる驚異的な景色を拝むことができる。

本当に首が折れそうなくらいに見上げるような岩の壁が本当にスゴイ!

グランドキャニオンと合わせて、死ぬまでに是非ともインターネットの画面でなく、あなたの目で、

ライブで見て欲しい自然の1つだ。

木々の緑と、大地の白と、空の青が絶妙のコントラストを描くとてつもない情報量の画像データが

眼球のファインダーいっぱいに拡がって、ただただ自然の、いや地球の雄大さに圧倒される。

まさに頭のCPUがフリーズして「無の境地」に立つことのできる数少ない場所の1つだ。

虹色の風車がしばらく頭の中を回り続けている…

ヨセミテの自然が作り出した超大作に打ちのめされた後、いよいよ私の一番楽しみにしていた街、

「サンフランシスコ」へ向けて「ピアッツァ」は走り始めた…

(私の国道66号線、その6へつづく)

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