Shall We ダンス?

「Shall We ダンス?」という映画をご覧になったことがあるだろか?

役所広司さん演じる主人公が、美しいダンス先生のヒロイン役、草刈民代さんに憧れて、家族にも

会社にも内緒で社交ダンスのスクールに入会する。

そしてだんだんとその社交ダンスの魅力に取り付かれながら、仲間たちとの友情とそれぞれの人の

成長を描いた心温まるコメディ作品だ。

周防正行監督がメガホンをとったこの映画は、その年の日本アカデミー賞を独占し、興行的にも

大成功を収めた。

1996年の作品だが、2004年にはリチャード・ギア主演のリメイク版まで作られている。

周防監督は、こ映画がきっかけになってヒロイン役の草刈民代さんとご結婚されたということも

話題になった。

社交ダンスの聖地「ブラックプール」

ところで、この映画の中にイギリスのある街が紹介される場面がある。

「ブラックプール」という街だ。

ビートルズの出身地で有名な「リバプール」から北へ約30kmくらいのところにあるイギリス最大の

保養地と呼ばれる街である。

なぜこの街が「Shall We ダンス?」に登場したかというと、その街のシンボルにもなっている

「ブラックプールタワー」から歩いてほどない距離に「ウインターガーデン」と呼ばれるダンス

ホールがある。

ここで毎年5〜6月頃になると世界で最も有名な社交ダンスの競技会「ブラックプール

ダンスフェスティバル」が開催されるのだ。

1920年に始まったこの社交ダンスの甲子園は(いや、高校野球の方が歴史が浅いからこの言い方は

失礼か… ワールドカップが適切である)あと5年で開催100年に達する。

スゴイことだ。

歴史ある英国の伝統を感じさせる、とても格式高い競技会で、まさに世界中の社交ダンス界の

選りすぐりのダンサー達が集結する。

社交ダンスというと少々おかたいイメージと、なんとなく年配の方が楽しむものという先入観が

あったりしたが、世界トップクラスのフェスの映像などを見て欲しい。

メチャメチャハードな動きをしている。

運動量もハンパではない。

これを男女のカップルが一糸乱れずシンクロしながら成し遂げているのだからスゴイのなんのって…

複数組のカップルが、テーマ曲に合わせて同時にダンスフロアに放たれる。

美しいドレスがフロアを縦横無尽に回転しながら動き回るさまは、まるで動きの素早い

万華鏡を見ているかのようだ。

世界最大のバックヤードビルダー「TVR」

実は、私の新婚旅行はこの「ブラックプール」だった。

でも、その目的はダンスを踊りに行くことでも、ダンスをを見に行くことでもなかった。

「おいおい、ここまで引っ張っておいて何それ?」と思われた方には申し訳ない。

今からその訳を話そう。

私が「ブラックプール」を訪ねた理由は、あるクルマの工場を見にいくことだった。

そのクルマの名は「TVR」。

残念ながら、今そのメーカーはもうない…

私はこの頃、TVRの輸入代理店で働いていた。

TVRは典型的なイギリスのバックヤードビルダーから成長したカーメーカーだった。

バックヤードビルダーとは、まさに家の裏庭で何かを作る、どちらかといえば趣味の工房のような

形態をとる製作者のことを指す。

クルマメーカーで言えばF1出場にまで登りつめ、数々の斬新なアイデアで世間をアッと

言わせたコーリン・チャップマンの「ロータス」が有名だ。

TVRはF1出場にまでは至らなかったが、ルマン24時間耐久レースなどには出場を果たしている。

日本にも鈴鹿1000km耐久レースに参戦し、幸運なことに私はその時ピットクルーとしてお手伝いも

させてもらった。

TVRは、最終的にあのロータスでもなし得なかった完全オリジナルエンジンを完成させ、V型8気筒

(4.2, 4.5L)と直列6気筒(3.6、4.0L)をラインナップに持っていた。

どちらのエンジンもレスポンスがメチャクチャ鋭くて、超レーシーな仕様。

というよりもレーシングエンジンをそのまま市販車に載っけていたという方が正解だ。

当時、すでにジャガーもローバーも、英国製カーメーカーは全て外国資本の傘下にあったため、

「最後の純英国製エンジン!」と言われていた。

この自社エンジンを搭載する前は、ローバーのV8エンジンをチューンした4.0、4.3、4.5、5.0Lを

搭載したモデル(グリフィス、キミーラ)などがあって、ロードスターのような軽量ボディーに

大排気量エンジンを搭載した現代の「コブラ」なんていう表現もあった。

ボディーは鋼管をトラス状に組み上げた通称バックボーンフレームに、有機的な曲線を描く

グラスファイバー製の一体成型ボディーがそれに被さるというシンプルな成り立ちをしていた。

とても個性的で、なおかつ自社エンジンまで作ってしまうその心意気に私はとても感銘を受けていた。

残念ながら、その自社エンジンの開発が仇となって財政を圧迫したのだとは思うが…

いずれにせよ、私が新婚旅行の行く先をイギリスにし、そしてTVRの工場を訪問するという

計画をたてたことは至極自然な流れだった。

(妻もイギリス人の友人がいたので話はスムーズだった。決して私が妻の意見も聞かずに物事を強引に

進める傲慢な人間であるというわけではない、と思う…)

相手の「プラス」を考えよう!

実際に訪問した時の模様は、後編でお話ししようと思うが、ここで言っておきたいことは、

私は決してTVRが大好きでその会社に入った訳では無かったということだ。

そのブランドの生い立ちや歴史、またクルマ自体の特徴を調べていく中で「好き」になるポイントを

発見することができた。

そしてその過程の中、そのブランドへの思いが強くなっていったのである。

(結果的に私自身のマイカーとして購入するに至る)

これは、何事に対しても言えることだと思う。

人はとかくマイナスな箇所、つまり相手の欠点を見つけることは簡単にできる。

なぜなら、その欠点があなた自身に対する「ストレス」の原因に成りうるからだ。

人は、「自分と違うところ」や「危険」に対してとても敏感なのだ。

一方、相手の良い点を上げようとすると、途端に考えないと出てこない場合が多い。

人間とは、かくも自分勝手な動物なのだ。

でも、良いところは必ずあるはずだ。

相手が人ではなく、モノであればそれをじっくりと研究して、実際に触ったり試してみたりできる。

その中から「ワオ!これは!」というポイントを見つけてみよう。

工場見学には、この「ワオ!」のポイントがワンサカあるのだ。

(後編へ続く)

 

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